ピークシフトの様式論

 ラマチャンドランの『脳のなかの天使』は示唆するものが多い。彼は人の心理、脳の働きとして「ピークシフト」という言葉を提示する。正方形と縦に長い長方形を比べると、正方形は安定、長方形は不安定。しかし長方形を好み始めると、縦にどんどん高くなっていくという。長方形はロマネスクとすれば、ロマネスクからはゴシックが続くということが理解できる。ピークシフトの論に則れば、縦長の半円アーチ窓はさらに高くなり、尖頭アーチの窓に移行することが理解できる。後期にかけてゴシックのアーチはさらに尖り、複雑な垂直性表現へと登り詰める。

 ルネサンスの正方形内接円はマニエリスム(後期ルネサンス)で楕円へ移行する。それはさらにバロックで反転しつつ湾曲する楕円形プランに移行し、複雑化する。これもまたマニエリスムからピークシフトが始まり、それが次第に高揚していく過程と理解できる。

 脳科学として、ピークシフトとは脳地図のどこの部分がどのような活動をすることになるのか、明かしてくれればありがたい。建築様式がどのような脳内の過程に対応するのかわかれば、美術史の書き方が大きく変わるだろう。古い哲学は脳内の作用として書き換えられるのだろう。そしてそれはコンピューターのプログラムに変換されることになる。AIはいずれ芸術家に取って代わるのか。