壁の情報建築論

 フェイク合戦を情報建築論として見てみよう。

 各種メディアはトランプのフェイク情報を非難する。トランプは各種メディアの発する不利な情報をすべてフェイク・ニュースだとして退ける。まるで城壁を挟んで矢が飛び交っているかのように見える。そう、ここに壁が立ちはだかっているのだ。いやむしろ情報の壁を築くことがトランプの思惑だ。メキシコ国境の見せるための壁だけでなく、不可視の壁も築こうとしているのだ。

 FTPを解体するということは透明化した構造をなくすること。壁を築いてやり合うのだ。保護貿易。保護するには壁が必要。

 大統領官邸を壁で閉じ、国境を壁で閉じ、多重の壁で、見通しの良い透明な構造を分断すること、それがトランプの基本思想。支配体制の核は親族で固めて壁、その周りを軍人系で固めて壁。白人支配層と移民を分断する見えない壁。

 民主主義はフラットな社会を目指す。個々人に権利と責任を担わせつつ、平等化。アメリカ合州国とは近代民主主義の理想社会だったはず。そこに多重化した壁、そしてヒエラルキー。これは合州国の終わりか。

 古代ギリシャの、広く地中海を覆った都市国家群の時代には、民主制と僭主制が繰り返していたようだ。僭主、つまり力をもとに支配者になる者。権謀術数、謀略を使って支配権を広げる者。嘘は謀略の手立て。対話でなく軍事力。確かに僭主は総合力がなければなれない。そして独裁者になると弾圧や奸計で対抗者を落としていく。周辺に戦争を仕掛け、弱小市民を兵士に仕立て、多くの人々を不幸にすることで自らの地位をさらに高める。忖度も助長する。僭主に時代には確かに版図を広げることもあり、僭主の欲望は華やかな宮殿を築き、残されもする。歴史学はややもするとモニュメントを称えることにもなる。そうか、トランプは僭主。そして意図的に僭主化を図っている。

 合州国が王国のように変貌するのか。そして華やかな宮殿が建築されることになるのか。それは、見えるものか見えないものかは不明だが、壁で囲まれるのだろう。かつて僭主が城を築いたように。見えない壁とは情報の壁。透明であるべき情報が遮断される。

 情報の壁は北朝鮮を代表として、中国にも、また世界の多くの独裁国家にも。シリアをめぐるロシア側情報と欧米側情報の隔たりには、戸惑わされる。ロシアも壁。自由と民主主義を世界に流布させるはずだった合州国が、今や壁作りに精を出す。

 中世都市の市壁、近世都市の稜堡式城塞。近代国家は国境という壁、税関という門。かつてのベルリンの壁、いまやパレスティナの壁。壁と門の建築学は古代の壮麗な都市門から、現代の検問所まで、系譜が辿れる。そして情報の壁とはインターネット遮断の電子テクノロジー。ファイア・ウォールとは防火壁からパソコンの検疫プログラムへ。

 アーキテクチャーは建築学から情報学へ。ならば、パソコンの検疫プログラムにも美学は成立しているのだろうか。美しいプログラム、快感を催すプログラムなどあるのか。目を圧倒する城壁のように、心を萎えさせるようなプログラムがあったりするのか。扁桃体が恐怖を感じるものが。

 スノーデンは壁を崩そうとした。現代民主主義のための英雄。体制側からすればテロリスト。

 透明な建築か、不可視の建築か。マジックミラーは外部から不可視。可視・不可視の建築。都市空間には可視・不可視の装置が錯綜する。防犯カメラは見られていないようで、見られている。監視する側の戦略。壁に代わる電子機器。都市空間はプチ戦争の現場。マスク、化粧、衣装で変装する人々。化粧道具から大手メディアまで、壁の情報建築論が体系化して整理できそうだ。