いつ神が、そして神殿が?

 NHKスペシャル『人類誕生』第2回。ネアンデルタール人ホモ・サピエンスが接触し、遺伝子が継承されているという。世界のヒトの遺伝子には、ネアンデルタール人の遺伝子が2%強ほど入っていて、東アジア人にはやや多め。もちろん日本人の場合も、同程度。私にもだろうか?!しかし、ネアンデルタール人の姿形はゲルマン系に似ているように見えるのだが、これはヨーロッパ大陸の環境からくるものなのか?疑問は残る。

 それよりも面白いのが、ネアンデルタール人が家族単位で集団化し、20人前後だったのに対し、ホモ・サピエンスは家族を超えて集団化し、400人くらいにはなっていたという。家族を超えて結束するには、動物的な本能を超え、理性がより強く求められよう。集団化するには暗黙とは言え契約関係のようなものが必要。そういえば頭蓋骨の輪郭が違う。ネアンデルタール人の頭蓋骨は大きかったようだが、おデコが後退し、後頭部が後へと張り出している。対してホモ・サピエンスの頭蓋骨はややコンパクトになり、おデコが前に出ている。これは前頭葉が大きくなったということなのか。そうであれば前頭前野が発達したことになる。つまり、知恵が増え、論理的思考ができるようになってきたということか。ホモ・サピエンスは道具を発達させていくことができたという。

 もうひとつ面白いのは、壁画に下半身が人間で上半身ないし頭部がライオンといったようなものが描かれ始めていることだ。それは存在しないものを創造する能力がついたということ。それはシャーマンの姿だったとされ、宗教儀式が始まっていたという。超自然的なものを感じ始めているのだ。つまり、霊、神の観念が脳内に形成され始めたということか。死後の世界も想像され、埋葬者が飾り立てられたという。

 集団化がなされるのは共同幻想が始まり、それを共有することで集団はますます大きくなる。人間社会の始まりだ。神観念の共有が社会を形作る。そこから古代神殿の発生までにはまだ相当の時間が必要だろうが、形なき神が、社会をなんらかの実力で統帥する王の発生と神が重なる時、神の住まいとしての神殿という建築物が登場することになるのだろう。ただ神観念は多様なので、擬人化された神の場合の話に限定されるが。

 やはり初期の人間には神、そして神殿が必要になる時期があったのだろう。神は脳が産んだ仮想の観念だが、それは前頭前野の発達と関係していたのだろう。家族を越える社会の発生には前頭前野が必要であり、そしてそこに神殿というものが仮想世界から実世界へと導き出されたのだろう。

 現代の地球共同体の社会をまとめるには、この初期的な神、神殿に代わるものが必要だ。ガイア仮説、つまり地球こそ神。地球は実世界の物理的存在だから、より正しくは地球という神殿。地球の人間にとって未知の不可思議さ、超人的な何かに、人間は幻としての神を感じているということ。前頭前野の内側にだけ神観念が生まれるのでなく、前頭前野扁桃体を含む大脳辺縁系の不可思議な現象を把握しようとするために、どうしても必要となった神という観念、というように見れば、神観念は存在するというよりは志向されるということか。存在論でなく、現象学

 神殿は神に捧げられた家。しかし同時に、それは超人的な能力を持った神を閉じ込めておくために蔵でもあった。

 番組のオープニングはエルサレムの神殿の丘の光景。多様な宗教の聖地ということで。ダビデの都市の斜面を登った丘上に築かれた巨大過ぎる基壇とその中心のぽつんと置かれた神殿が見せる、ユダヤ人社会の都市景観が連想に浮かぶ。急峻な斜面に不規則に展開する市街に対し、丘上の見事に平坦で矩形の巨大な聖域。滑りそうになって肝を冷やした斜面を思い出す。なぜあんなに巨大な幾何学形態が必要だったのか。その基壇の足元で、神殿の不在化をユダヤ教徒がいまなお嘆きつづける。ホモ・サピエンスの始まりから続く宗教感覚は現代にまで続くのか。ホモ・サピエンスの集団化は一つの地球共同体への統合に向かうはずなので、それぞれの部族が築いた古代神殿の時代はとっくに卒業したはずなのだが。21世紀はガイア信仰でひとつにまとまることで、平和な世界となるのではないのか。