⑮ボトムアップ型の仕掛け

佐々木禎子さんをモデルとした原爆の子の像はドームを縦に引き延ばしたような土台の上に立ち、大きな折り鶴を高く掲げている。この像はボランディア的な募金運動に始まるものであり、平和記念公園の北の方、公園軸からは少し逸れて置かれている。記念像のこ…

⑭平和記念公園の理想都市軸

平和記念公園は全国的な設計コンペを通して、当時まだ若い建築家丹下健三が処女作に相当するものとして設計した。彼は東京大学助教授となっていた時に広島市の戦後復興都市計画のために国から派遣され、被爆直後の焼け野原になった広島都心部の調査と計画策…

⑬理想主義から機能主義へ

理想は現実を無視して、あるいは現実認識が不足のままに描かれる。広島の理想都市計画は、地面に残る痕跡から、確かに実施に移されたが、さまざまの変化を伴い、理想像が完全に定着するにはいたらなかった。理想都市像ははかない夢ではあったが、だからこそ…

⑫大航海時代の影

『芸州広島城町割之図』でもうひとつ目立つことは、城下町南部を南北に走り、海へと続く三本の堀である。これらは海からの舟運のために設けられたと考えられ、いわば運河都市の様相をなす。新市街を築く際には排水計画が必要であることはこの時代には知られ…

⑪広島城下町の形態構造

桃山時代の広島城下町計画図『芸州広島城町割之図』では、内堀で囲われた本丸が中心となり、中堀、外堀と三重の堀が巡り、上級武士が階層化して配置された。それが都市の北半の中央を占め、さらに中級、下級の武士が東西と南に配置された。南半は中央軸線で…

⑩グローバリゼーションのもとでの被爆都市の意味

広島、長崎の原爆被災はアメリカ合衆国によるものだから、日本人はいっしょに反アメリカを加わるはずだ、などとメディアに発言している勢力が世界のどこかにいるらしい。これは次元の問題であって、私たちはもう一段高い次元から下の次元を見下ろしてどう説…

⑨人間的尊厳の始まり

今日の民主主義社会の常識で言えば、城下町は武士階級が支配した階級社会であり、また城主の独裁体制となっていて、否定すべきものである。城好きが多いとしてもそれはおおかた、趣味の対象に過ぎず、かつての封建社会を好んでいるからではない。天守閣を復…

⑧桃山時代の理想都市像としての広島城下町

自治体としての広島市は核兵器廃絶による世界平和を実現することを目標としていて、そのためにさまざまの都市政策を工夫してきている。それは一種の21世紀的な理想都市構想である。その基盤にある生命尊厳という感情は、さまざまの生命体が集まって生態系を…

⑦エコロジカルな都市風景

戦国時代に中国地方の雄となった毛利元就に拠点は中国山地に位置する郡山城だった。有力な家臣たちはそれぞれの地元に土地と館を持っていた。孫の輝元が秀吉と対峙する頃には、郡山の麓に置かれた居館の周辺に吉田の市場町が発達してきていたと思われる。信…

⑥無機的と有機的

20世紀のモダニズムにおいても緑地、都市の緑化は大きなテーマとして提唱された。今日のグリーン戦略はそれとは随分と質が違う。ポスト・モダニズム以後、もはやモダニズムの機能主義的な「緑」の戦略は批判される対象ともなった。機能的にゾーンを区切って…

⑤オーガニックな都市風景

G7サミットの開催される元宇品は、通勤客も足繁くうごめく広島市の海の玄関宇品港に接するとはいえ、かつての島の原生林の面影がいまだに残されている。それは必ずしも目立った形を持たず、潮に洗われて残っただけの、広葉照葉樹林で覆われた、あまり印象…

④ポジティブなグラウンドゼロ

ルネサンスのイタリアを代表として、理想都市像が描かれ、実際に築かれてきた。20世紀には未来都市を描くことが多くあり、とりわけ科学技術の革新をともなって、時代を動かしてきた。しかし今日、地球環境の病は産業革命以来の科学技術のせいとされてきて、…

③宇品港と広島湾の文化景観

そもそも元宇品地区は広島湾に浮かぶ孤島だった宇品島を道でつないだものであり、今も島の面影を残している。明治になってすぐ、それまで宇品島を中継して小型船から大型船に乗り換えるというまどろっこしい舟運を嘆き、新しい近代的な港を欲した県知事が陸…

②広島の現代建築文化

グランドプリンスホテル広島の設計者池原義郎氏はプリンスホテルが東京で選んだ建築家であり、広島とは縁があったわけではなかったろう。しかしそのデザインは、建築業界で広島派と呼ばれる広島在住の建築家たちのデザイン感覚に近似している。その代表格は…

①サミット会場のホテル建築

G7サミット会場として予定されているグランドプリンスホテル広島は、広島湾に面する元宇品に、印象的な姿で建っている。広島でスポーツ大会イベントのアジア大会が開催された1994年にプリンスホテル系列の広島での目玉ホテルとして開業したが、広島市都心…

広島サミットに寄せて

今年2023年5月、いよいよ広島市を舞台にG7サミットが開催される。世界の首脳が一堂に会して、この時代の世界観が歴史に刻まれることになる。今の世界にはさまざまの課題が山積みであり、サミット自体もグローバリゼーションの成功者によるあるイデオロギー…

様式転換期の脳内メカニズムが知りたい

長距離走で高スピードが続くと脳はそれ以上走るなと指令を出すそうだ。行動モニタリングをしている前帯状皮質が脳内の各所からの情報をもとに、一次運動野に対してストップをかける。そのような抑制機能は他の部位にもあるのだろうか。ある様式が過剰に発展…

ミニマリズムの隔離病院を

シンガポールで見本市会場を感染者収容施設化した光景は印象的だ。展示ブースのようなもので病室がつくられ、ベッドが置かれている。整然と並ぶ病室群はミニマリズム・デザインのように見える。通路にはロボットがしずしずと動き、物品の輸送をしている。中…

対ウィルスの都市計画を考え始めよう

北京を含め中国各地で、インドで、北イタリアで、その他世界の中枢都市で、大気汚染が突然消えたそうだ。原因は都市封鎖。この調子ではCO2が減り、地球温暖化にブレーキがかかるかもしれない。グレタ・トゥーンベリが突きつけた要求が、Covid-19の大軍勢によ…

ポスト・コロナの建築様式

30年も前から唱え始めた120年周期説、さらに一歩前進できる。今を知るには120年前、つまり1900年前後が参照されるべきだ。その頃、アール・ヌーヴォーから新古典主義への転換がある。P.ベーレンスがそれをなしたのだが、それは歴史が生理現象のように、複雑…

ヴェネチアのウィルス・ショック

ヴェネチアのカーニヴァルが終盤になって中止にしたことは象徴的だ。都市文化を蓄積し、都市の上に都市を重ねてきたことでは一流のヴェネチアが、自ら引き籠もった。都市の華やかさの上に華やかさを積み重ね、爛熟させ、発酵させてきた、その都市が人気のな…

ウィルス時代の都市社会システムへ

人新世はホモ・サピエンスがつくる時代。都市はヒトが生産効率を上げるために生み出された社会形態。ジェリコから始まって、メソポタミア都市、エジプト都市、エーゲ海都市、ギリシャ・ローマ都市、キリスト教都市、ルネサンス・バロック都市、近代都市、そ…

建築のリアリズム美術について

クールベのリアリズムは、どのような脳内現象なのか?新古典主義の英雄的な理想主義を否定し、他方でロマン主義の深い個人的心情告白も否定する。いずれも何か嘘くさい。そう思ったとき、目の前の現実世界が目を落ち着かせる。実存主義的。クールベはそのま…

ルネサンスのクオリア論

比例論はウィトルウィウスに遡るわけだが、ルネサンスにはとりわけ比例感覚が重要となった。とりわけファサードの分節は比例美のもとでなされていた。さてその感覚はどこに基盤を持っていたのか。 比例美の感覚は芸術家・建築家の脳に宿った。より正確に言え…

宗教のパラダイム転換過程

古代神話型の宗教と中世キリスト教型のそれの土台の違いはどう表現したらよいか、悩んでいたが、少しヒントあり。宇宙型と救済型。まだわかりにくいが、ヒントにはなる。古代人はともかくも宇宙を理解する言葉を必要とした。中世人は地上の人が死後、幸福で…

合理的造形の背景にある情動

ダマシオは情動→感情→理性という順番を想定している。『意識と自己』の始めの方で。情動が非理性的なものとして下等に扱われてきたことに批判しつつ。情動があるから理性も働くのだと。 建築学も都市工学も、まさに理系の学問だからか、確かに情動を論じるこ…

前頭前野の自立がすなわち近代か

デカルトは、考える我という地平を抽出し、世界を数学で理解しようとした。古代の神々も中世の一神も関わらない、科学的な世界観が生まれる。近代の始まり。脳内では何が起こったのか。前頭前野は物語を創作して扁桃体の発する恐怖感やさまざまの感情を制し…

ルネサンス脳は側坐核に?

人類の文化的進化論。古代、中世、近世。中世脳の宗教社会がわかってきた。その後に近世脳。ルネサンス。どのように。 小脳扁桃という部位は恐怖感と喜びの二元的な感情に関わるという。先史時代のホモ・サピエンスは自然界で生きていくために、この機能に立…

アーキテクチャーとは神の似姿を形にすることか

脳と建築の関係を思索し続けているが、なかなか答えが出ない。今はホモ・サピエンスの始まりからの、人間の認知的な進化過程を参考にしようとしてきている。 5万年前に黒人としてアフリカからアラビア半島に旅立った150人の人間が人間史に画期をもたらし…

認知建築史学は可能か

コリン・レンフルー『先史時代と心の進化』に、「認知考古学」という言葉を見つけた。ホモ・サピエンスが獲得した認知力を軸にして考古学を説き直そうとするものである。ちょうど、建築史を脳の発達とそれに伴う文化的な進化という発想で構築し直せないもの…