様式転換期の脳内メカニズムが知りたい

 長距離走で高スピードが続くと脳はそれ以上走るなと指令を出すそうだ。行動モニタリングをしている前帯状皮質が脳内の各所からの情報をもとに、一次運動野に対してストップをかける。そのような抑制機能は他の部位にもあるのだろうか。ある様式が過剰に発展するとなぜか突如として発展が止まる。発展過程にも限界認識装置があり、ストップ機能が働くのではないか。芸術創作に関わる脳内の部位に対しても前帯状皮質から神経線維がつながっていたりするとおもしろい。

 成功した様式も、つねに次世代は乗り越えようとし、乗り越えの連鎖が様式発展史をなす。新しい様式の創造、前世代の乗り越えは芸術家の脳内に快感をもたらすだろう。それ以上の発展が可能であるかもしれないが、創造の喜びが脳の報酬系を満足させられない程度であれば、既存のパラダイムからの脱出が起こるだろう。そこに脳内のメカニズムがあるはずだが、よくわからない。もう走り続けるなと言う指令がどこからどこに流されるのか。

 ある様式は脳内で小さな芽をふき、次第に成長し、太い幹と多数の枝葉を形成するだろう。それはニューロンのネットワークとなり、複雑な網をなすだろう。その様式が発展し尽くすと、それが根っこから枯れることになる。新しい世代の脳内でまったく異なる場所に芽がふき、異なるニューロンの網を育てていく。そうであれば単に別のシステムが独立してあるだけになる。両世代の間に挟まった世代の脳は、古いニューロン網を継承しつつ、その取り崩しと、次にどこにどんな芽をふかせるかを見出し、いわば引っ越し作業をするだろう。過渡期の様式というものがそこに形づくられる。これも重要な大仕事である。

 ヴィンケルマンと交流したメングスは、ロココを捨てて新古典主義に転換した。オットー・ヴァグナーはネオ・バロックを捨ててセセッションに移り、モダニズムへの道を指し示した。彼らの脳は前世代から古いニューロン網を教わり、成長させてあったが、自らそれを捨て、別の新しいニューロン網の形成へと進んだ。そこで起こった限界認識、ストップ操作、そしてニューロンの情報の流れを別方向に向ける作業、それらはどのような脳内過程をたどったのだろうか。