対ウィルスの都市計画を考え始めよう

 北京を含め中国各地で、インドで、北イタリアで、その他世界の中枢都市で、大気汚染が突然消えたそうだ。原因は都市封鎖。この調子ではCO2が減り、地球温暖化にブレーキがかかるかもしれない。グレタ・トゥーンベリが突きつけた要求が、Covid-19の大軍勢によって満たされるのかもしれない。気候変動により、いずれ来世紀には大気圏が崩壊し、人類を滅ぼして終わるというシナリオは、意外な形で書き換えられるのか。人類は生存し続けられるのか。Covid-19は世界人口の数パワーポイントを犠牲にしつつも、人類滅亡を止めた救世主と讃えられることになるのだろうか。

 そんな新しい神話、もうひとつのSFエンターテインメント映画を妄想させるほどの事態だ。もちろん現実はそう簡単なシナリオでもないだろうが。確かにCovid-19は現代のグローバル都市文化にパラサイトし、中枢都市群を破壊し、都市ネットワークを麻痺させている。地球環境破壊の根源は、NHK知性派の唱える「欲望の資本主義」だ。グローバリゼーションが生んだ航空機交通の速度と密度こそがパンデミックの基盤。都市経済の強度が20世紀の地球社会を変えた、その特性を、RNAしか持たないミクロン・レベルの半生物ウィルスに乗っかった。

 細胞内に侵入すると生物のように増殖するが、体外では非生物、つまりは物質に過ぎないという半生物。脳さえ持たないそんな輩が、人類の先端文化に巧妙にパラサイトして、寄生先の一部を死に追いやるという悪質なイタズラまがいのことをする。中世の宗教家であれば悪魔が撒いた毒とでも言い、どこかに司令塔があると言うのかもしれない。あるいは人類70億超の人口を超える何千億のウィルスが集団脳をなして計画的に人類を襲っているのかもしれないが、そうであっても今の人間の科学では解明できない。ただ、生物になったり、非生物になったりするミクロン・レベルの何者かでしかない。

 人類の科学は日進月歩。目覚ましい研究でCovid-19をいずれは克服するだろう。しかし遺伝子変異をして再来したり、他の様々のウィルスが次々に人間を襲いそうで、モグラ叩きを続けなければならないのが人類の業となると識者は唱えている。現在の都市はそれに備えられてはいない。清潔な都市を目指して、ルネサンス理想都市論など、人類は都市を合理的な空間システムにしてきた。その最たるものとしてニューヨークのグリッドプランと超高層群の組み合わせになる数学的空間が実現した。そのニューヨークがCovid-19の最大の犠牲者となるということは、合理的都市空間はウィルスの戦略に弱いのか。

 自然発生の有機的な迷路都市の方が強いのか。しかしミラノあたりでは都心ではなく小さな歴史都市が感染爆発している。現代的な計画都市では透明性、開放性が望まれるから都市封鎖も都市を大きく取り巻く壁に仕立て上げなければならない。有機的な都市の方が細かく封鎖ユニットを定めることができそうだ。そもそも中世や近世には市壁を巡らせて都市間戦争に備えたが、近代には国境が戦場になり、都市は市壁を捨てて開放した。いまさらコンパクトな都市封鎖はむずかしい。ただアメリカではgated communityがあって住宅団地封鎖が可能なようだ。ともかく、対ウィルス都市計画の手法は早急に開発し、実現しなければならない。

 街に出るとこには防護服で身を固め、やはり防護服の店員のいるスーパーで買物して帰る。自宅玄関に着替えゾーンがあって慎重に閉じ、消毒剤で滅菌する。招かれた客も同様にする。リビング以下は通常服。ウィルスは街路の地面に落ちているから、集合住宅の1階は居住に使わない。ヒルベルザイマーの高層都市案のように立体的にシステム化した冷たい都市となる。日本では闇市の名残の呑み屋街、ガード下、屋台などに典型的に見られる、密集呑み会こそ楽しみとされてきたが、social distancingしたパーティ形式に変えないとまずいか。飲み食いの集まりの空間も変わらざるを得ないとしたら、そのための広い空間は賃料がかかる。デジタル呑み会が始まったが、密着、密接が生むオキシトシン健康法は満たされず、フラストレーションが溜まる。

 先進国というのに未だに満員電車問題を解決しない、いやあえて言えば経済発展の犠牲者として打ち捨てて解決しようとしない日本の政府。テレワークを言う前に本当は地方分散し、あるいはコンパクトシティを実現して交通量を減らすべきところだった。いずれにせよCO2は削減しなければならない。感染を生む満員電車も即刻解消しなければならない。東京の都市空間はあまりにの非合理。地震災害も膨大になるという、だれもが薄々知っている予測が、ようやく情報開示されるようになったばかり。理論を立てて都市改造しようにも、屈折した私権制限の法律が妨害する。はじめから絶望的なのだが、しかしパンデミックは確実に増えるだろう。人類が野放図の繁栄を欲望する限り。人類は精神文化も進化してきたはずであり、もう一段階、進化の階梯を上りたいものだ。